書評(という名の感想)

【書評】ネットショッピングの会社ではなかった「amazon 世界最先端の戦略がわかる」

2018年9月14日

amazon 世界最先端の戦略がわかる

「ここまで強くなったAmazonに日本企業はどうやって対抗するの?」とういうのが正直な感想。

Amazonの戦略についての衝撃的な内容でした。

最近では時価総額がアップルに続いて2番目に1兆ドルを超えて増々存在感が出てきたAmazon。

Amazonプライムに加入すれば配送料が無料ですぐに届くし、映画を見れたり、Kindleを読めたり。

生活の中に入り込んで、今ではAmazonがなくなると不便を感じる人も多いのではないでしょうか。

便利なサービスを提供してくれるAmazonが、どういった戦略でこの短期間で急成長したのかに興味があって読みました。

Amazonといえばネットショッピングの会社の印象が強いですが、それは大きな大きな勘違い。

スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグに比べて、AmazonのCEOのジェフ・ベゾスの印象が弱かったのですが、この本を読んでみると、ジェフ・ベゾス、凄い…

Amazonの戦略について興味深く読めました。

Amazonって何の会社なの?

AWSって?

Amazonの中で、実は1番大きな利益を出しているのはクラウドサービスの部門「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」。

クラウドサービスというのは、サーバーを提供するサービスのこと。このクラウドサービスで大きなシェアと利益率を持っています。

大きな企業はそれぞれ独自にサーバーを持っているのですが、この運用コストが莫大なものになります。

ユーザーからすると、サーバーは快適に動いて当たり前。

例えば、Yahooのホームページにアクセスしているのにホームページが表示されないとなるとユーザーからすると不満ですよね。

しかもアクセス数は一定ではなくて、多いときもあれば少ないときもあります。サーバーは突発的なアクセス数増加にも対応できるように性能の高いものが必要になってきます。

さらに、サーバーは用意して終わりではなくて、その中で動くシステムが必要。

日本の銀行などは、自社の大型コンピュータを持つことが伝統になっていて、入出金のデータでシステムトラブルが発生すれば信用問題です。

そうならないためにも、自社オリジナルのサーバー開発には数年かかりますし、投資金額が数千億円になることも。

サーバーの導入には運用コストを含めて莫大なお金がかかるので、企業としてはできれば下げたいところです。

そして、そのサーバーを提供しているのがAmazonであり、そのサービスがAWS。

最初はAmazon自社内の使っていないサーバーの枠を他社に提供するところから始まったAWSですが、今では1番の稼ぎ頭になっています。

どれぐらい利益をだしているの?

2017年12月期のAmazonの売上高は1778億ドル。そのうちAWSは174億ドルで10%にも満たないレベルです。

しかし、驚異的なのは、Amazonの営業利益が41億ドルに対して、AWSの利益は43億ドル。

AWSがAmazonの利益の大部分を出しているばかりか、他の部門の赤字分や事業拡大のための投資分などをまかなっています。

AWSを利用しているところで1番衝撃的なのはアメリカ合衆国の情報機関であるCIA。機密情報が高い国のデータを一企業であるAmazonに預けています。

他にも、マクドナルドや民泊のAirbnbやネットフリックス。国内では、ユニクロのファーストリテイリングや日立製作所や三菱UFJ銀行など。

大企業から新興企業までが続々とAWSを利用しています。

クラウド業界でのシェアでは1位。Amazon(AWS)が35%に対して 2位のマイクロソフト(アジュール)が13%。

ネットショッピングの企業かと思いきや、クラウドサービスで圧倒的な利益と存在感を発揮しています。

莫大なキャッシュで新しい事業に挑戦

CCCという打ち出の小槌と、事業で出した利益を使ってどんどん新規事業に挑戦しています。

CCCがマイナスという魔法

CCCというのはキャッシュ・コンバージョン・サイクルの略。

仕入れた商品を販売し、何日間で現金化されるかを示したもの。このCCCが小さければ、現金を回収するサイクルが早いということ。

世の中の企業でも黒字で倒産してしまうのは、売上が立っているけれども現金の回収が遅れてしまった結果、手元にあるお金では足りなくなって倒産してしまうというものです。

ジェフ・ベゾスがこだわっているものの1つがキャッシュフロー経営で、帳簿上の数字よりも実際のお金の流れ。

現金はできるだけ早く回収したいのでCCCは小さいほうがいいのですが、小売の世界最大手のウォルマートのCCCはプラス12日。日本の出版社だとプラス180日。それに対して、AmazonのCCCは何とマイナス28.5です。つまり、物が売れる前から入金される流れになっています。

この大きな理由の1つとして考えられるのが、マーケットプレイスで出品者が出している商品の決済を一括してAmazonが行っているため。その売上から手数料を引いて後日出品者に返しているので、Amazonの手元にお金が残ることになります。

この一時的に手元にあるお金がかなり有利に働くことになります。

本来ならば金利を払ってお金を借りるはずが、金利を払わずに自己資金以外で使えるお金があることになります。

こういったお金を新たに事業への投資に繰り返すことで、錬金術のようにお金を生み出して急成長を成し遂げました。

新しい事業に続々と立ち上げて失敗する

Amazonはサッと事業を立ち上げて、メドが立たなければサッと撤退することが特徴。

今まで、オークション、検索エンジン、スマートフォンなど、各種事業に参入を試みています。

Amazonの主力の小売業を伸ばす上で必要となる技術開発を行っては、開発した技術を新しい事業として立ち上げていきます。その雲行きが怪しいとなるとサッと撤退。

試行の数が多い分だけ、成功する可能性のある事業を掘り当てることも多く、伸びそうになければ傷口が広がらないうちに撤退していきます。

AWSで利益を上げ、CCCを小さくすることで手元にお金を残し、そうやって生み出したキャッシュを新規事業にどんどん投資することでプラスのスパイラルを生み出して急成長を可能にしています。

プラットフォームを提供

小売業で直接販売などを行いつつ、マーケットプレイスやアマゾンエコーなどのプラットフォームをAmazonは用意しています。

マーケットプレイス

マーケットプレイスは誰でもAmazonに出品して、商品の売買ができます。

商売で多くの企業が頭を悩ませるのが集客。どんなに良い商品を作ったとしても、お客さんを集客できないと認知されずに潰れてしまいます。

Amazonのマーケットプレイスに出品すれば、お客さんの目に触れて集客につながるのでAmazonに出品することに魅力を感じる人は多いです。

ただ、出品者側からするとメリットばかりではなく、デメリットとしては決済情報がAmazonに筒抜けになっているということ。どれだけ売れたかの売上データを全てAmazonに知られてしまいます。

売れ筋商品に関してはAmazonが直接大量に仕入れて販売することができてしまうので、マーケットプレイスの出品者よりも安く出すことが可能となります。そういったことを嫌う出品者たちの中にはマーケットプレイスから撤退する人たちもいます。

アマゾンエコー

アメリカを中心に爆発的に売れているアマゾンエコー。日本ではスマートスピーカーやAIスピーカーと呼ばれる商品で、話しかけるだけで商品の注文や今日の天気を知ることができます。

「スキル」というアプリのようなもをの入れることで機能を追加することができます。

アマゾンエコーの核となる技術が音声認識技術の「アレクサ」。iPhoneの「Siri」と同種の技術です。

Amazonがすごいのはアレクサ対応機器の開発キットを外部に向けて公開しているところです。

iPhoneアプリの開発キットを外部に公開してアプリ開発が爆発的に普及したのと同じ様に、Amazonも開発キットを公開しています。

音声認識技術は家庭内における「ホストスマホ」になる得る可能性を秘めているだけに、このプラットフォームを提供しているAmazonの圧倒的な優位性が予想されます。

狙われたら対抗できないM&A

AmazonからM&Aで狙われると業績が好調でも対抗できません。

例えば、靴のオンラインストアのザッポスを買収した場合を例に上げます。

最初は、買収提案をはねつけたザッポス。

これに対してAmazonが取った戦略が容赦ない。競合サービスの靴のオンラインストアの「エンドレスコム」を立ち上げました。そして、豊富な資金を持つAmazonはザッポスより価格の安い値段で販売していきます。

ちなみにザッポスは30億ドル程度の売上があった新興企業。日本のABCマートが約24億ドルの売上なので、かなり大きな会社です。

こういった戦略を取られると、ほぼほぼどの企業でも安値攻勢で押し切られてしまって太刀打ちできません

ザッポスも押し切られてM&Aを受け入れました。

買収したい企業があれば、サービス力とキャッシュ力に物を言わせてM&Aしてきます。

法律に抵触しているわけではありませんが、これに関しては品がない印象を受けました。

愛着を持って育てた会社をぶん取られる創業者や社員からすると悔しいでしょうね。

徹底的なお客様志向

Amazonが掲げるのは「地球上で最もお客様を大切にする企業」。

常に最安値で、迅速に顧客に商品を供給しようとする姿勢。

安値で高いシェアを握ったからといって、その後に価格をつりあげるようなことをしない。

Amazonプライムでは、圧倒的なコンテンツ量で会費以上の満足度をユーザーに与えている。

決しておごるわけではなく、お客さんの方を見ながら常に成長を続ける企業なので、足もとをすくわれるといったことは考えにくいです。

独占禁止法に触れるレベルまではいっていないので、Amazonの躍進はしばらく続くと感じました。

まとめ

今回は「amazon 世界最先端の戦略がわかる」を紹介しました。

amaznのキャッシュフロー経営ロイヤルカスタマー(Amazonの場合はプライム会員)への満足度向上の戦略が特に勉強になりました。

それにしても、Amazonは巨大ですね。それを実感。

今までは、MacやiPhoneというブランドを持つAppleや、検索エンジンで圧倒的なシェアを持つGoogleの印象は強かったですが、それらがかすんでしまうぐらいAmazonの凄さと脅威が伝わってくる一冊でした。

ネットショッピングの企業と思っていたAmazonが、クラウドサービスであったり、スマートスピーカーなどのハードウェア、はたまた新しく銀行などの金融にも手を出す可能性を考えると、今後は小売業だけでなく社会全体にさらに大きな影響を持つのは明白。

本書の帯にある「この一社さえ知ればいい」というのも言い過ぎではないのかもしれません。

これからのビジネスや時代の流れに興味がある人は必読の一冊です。

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